石川県白山市・百四丈滝〜再訪


名瀑中の名瀑、石川県の百四丈滝を初めて訪れたのは2007年の秋。「また必ず来るよ」と挨拶して帰ってから2年目の2009年8月、再び憧れの百四丈滝へ逢いに行ける機会を得ることになった。


さて、前回は正統派の谷ルートで到達したわけだが、前衛である黒滝の巻きが非常に危険なため、別に安全なルートがないかと模索していた。前回滝壺から見た感じでは左岸のガレの傾斜が緩く、問題なく下れそうに思えた。そこで今回は白山登山道の一つである加賀禅定道を途中の天池まで登り、そこから丸石谷へ下降して百四丈滝滝壺へ行こうと試みた。このルートなら時間はかかるものの、それほど危険はないと思われるため、今回初めてこの滝を訪れる仲間二人と共に再び百四丈滝へ向かったのであった。


予定では滝壺にテントで泊まる予定の一泊二日。この日程で楽勝だと思っていたのだが、結果は二泊三日に。まあ、山の予定は思うようにいかない物で、その辺りの詳細は以下のリポートを読んでいただきたい。


右の地図は今回歩いた全ルート図。赤い線で描かれいるのがGPSのログ。長大なルートのため、かなり縮小して見にくいのを許してほしい。そのかわり、この地図をクリックすると、ポップアップウィンドウで赤い四角の部分が拡大表示されるので、主要部分の詳細はそちらの地図でご確認いただきたい。


ところで結論を先に書いてしまうと、このルートは「危険はほとんど無いが時間がかかる」という事になる。沢登りに自信のある方や危険があっても日帰りで行きたい方は谷ルートをおすすめする。こちらは滝壺まで約8時間。反対に、命を危険にさらしたくない方や、滝壺でのんびり一泊してもよいという方には、こちらをおすすめしたい。コースタイムは山になれた人で滝壺まで10〜11時間が必要。テントではなくツエルト泊の方が、荷を軽くできて有利かも知れない。

加賀禅定道登山口。禅定道の名前が示すとおり、元々修験者が登るための道であった、そのためこのルートは白山の数ある登山道の中でも距離が長く高低差も大きい。そのため一日で山頂まで行くのは時間的にかなりきつく、途中の奥長倉避難小屋で一泊するのが一般的だ。基本的に尾根ルートで迷いようがないが、意外とアップダウンが大きく、体力を消耗するルートであった。ちなみに登山口には5台分ほどの駐車スペースがある。


御仏供水おぼくすい檜新宮ひのしんぐう。御仏供水はこのルート唯一の水場なので、立ち寄って水を補給しておいた方がいいだろう。尾根ルートはとにかく水不足に悩まされがちなので、多めに汲んでおいた方が安心だ。岩の割れ目からこんこんと湧き出す水は、まろやかで美味しかった。檜新宮は昔は大きな神社だったようだが、いまは小さな社が再建されているのみである。一礼して登山の安全を願い、先へと進んだ。


丸石谷と奥長倉避難小屋。丸石谷はこの写真からはちょっとわからないが、一番奥に百四丈滝の落ち口が僅かに見える。2年前にこの大岩だらけの谷を遡行したのだと思うと感慨無量であった。遡行しているときはあまり思わなかったが、こうやって上から見てみると結構急な谷である。

奥長倉避難小屋は、当初の予定では泊まるはずではなかったのだが、雲行きが怪しかったため急遽日程を一日伸ばして泊まることにした。時間は午後1時、かなりゆとりを持った決断だったが、その後まもなく激しい雷雨に見舞われたので、この判断は正しかった。山では必ず予備日を取っておく事と、余分な食料を持って行くことがが大切である。ちなみに小屋は水場こそ無いものの綺麗で、快適な夜を過ごすことができた。


避難小屋から少しきつい美女坂を登ると、百四丈滝展望台に着く。ここが一般的に百四丈滝を見られる唯一の場所だが、かなりの遠望である。ちなみに冬期の積雪のためか展望台は崩壊していた。修理されるまでは自己責任で利用すること。さて、ここからは滝と共に下降予定ルートもよく見えたのでで様子を観察してみた。笹藪は深そうだったが傾斜も緩く、特に難所はなさそうであった。


展望台から少し歩くと天池に到着する。江戸時代まではここに宿泊施設があったらしく、石垣の遺構が残っている。また、この天池周辺はお花畑になっており、様々な高山植物を楽しむことができる、

さて、いよいよここから登山道を外れ、百四丈滝への下降を開始することになる。どこからでも下れそうだったが、鞍部でわかりやすい天池を起点に下ることとした。広大な笹原の彼方に目指す百四丈滝の落ち口が見える。まだ先は長そうだ。


降下を初めてしばらくは笹の背丈も低く、所々に小さなお花畑もあるので視界もあり歩きやすい。しかしまもなく笹は身の丈を越え、まったく視界はきかなくなった。

しかし天の助けか、薮が濃くなった辺りから水の流れた跡が足下に現れ、次第にはっきりしつつ百四丈滝へ向かっていった。残雪期や雨の時に水が流れるのであろうが、この部分だけ笹が生えていないので歩きやすい上、視界がきかずとも方角を確認する必要がないので非常に楽であった。


百四丈滝展望台からも見えた巨大岩。近づいてみると想像以上に大きな岩であることがわかる。ここまで来れば、百四丈滝まであと少しである。

巨大岩を過ぎると沢幅も一気に広がり、しっかりとした流水も見られるようになる。この沢をこのまま降りていきたいところだが、残念ながら百四丈滝の横で崖に飛び出してしまうのでそうもいかない。適当なところで左の小尾根に登り、一つ隣の沢へ移動することになる。ここのタイミングがこのルートの一番のポイントになる。目安としては、右上の写真のあたりからだろうか。小尾根は笹藪が非常に激しいが、短距離なので我慢して乗り越える。


小尾根を越え隣のガレた沢に移り、少し下ると右手に目指す百四丈滝が見えてくる。こうなると、いやがうえにもテンションが上がる。ちょうど落ち口と同じ高さだから、あと90m下らないといけないのだが、もはやそんな事は気にならなくなる。

ここからは綺麗な水の流れるガレ沢を一気に下る。傾斜があるので注意は必要だが、特に危険な場所はないので気楽なものである。下流から黒滝を巻くことを考えれば、楽々ルートと言っても良いぐらいだ。


降下開始から3時間、無事百四丈滝へ到着。思わず「また来たよ」と挨拶してしまった。2回目の訪問だが、やはり素晴らしい滝だ。今回は前回と違って滝全体に日光が当たり、白く美しく輝いていた。


滝下から。この滝のこの構図は大好きだ。落ち口の向こうに青空が覗いているのがポイント。なかなかこういう勢いの良い落ち口を持つ滝は少ないのだ。


前回は時間が無くて行けなかった滝の裏側へ回り込んでみた。そこには予想以上に広い空間が広がっていた。そして見上げると、一本の水柱が遙か上空から落下してくるのが見えた。この感動ばかりは写真や文章では伝えることができない。普通では考えられない空間…声も出せずにただただ見とれるばかりだった。


裏側から見た滝壺。滝の裏側に広いスペースがあるのがわかっていただけるだろうか。完璧に空中を飛ぶ直瀑だからこそ見られる光景。これだけの規模で、こんな光景が見られる滝が他にあるだろうか。おそらく無いのではないかと思う。


午後2時30分、虹が滝身を横切った。白い滝に色鮮やかな虹、これ以上素晴らしい光景はなかなかお目にかかれないだろう。


滝壺にかかる巨大な虹。まるで自分と滝をつないでくれているようだった。今回、2度目の訪問にして百四丈滝を満喫することができた。滝にしてみても、2度も逢いに来てくれたのだから、少しサービスしてくれたのかな?とも思ってみたりした。ありがとう、百四丈の滝。

この後、滝壺にテントを張り、夢のような一夜を過ごした。テントのベンチレーターから覗けば、闇夜に浮かび上がる真っ白な水柱。この光景は一生忘れることがないだろうと思った。

翌朝、別れの時。名残を惜しみつつ「また来るよ」と頭を下げて帰途についた。間違いなくまた逢いに来る。それは今でも確信している。百四丈滝。それは私にとって、一生頂点に輝き続ける滝なのだから。



【動画撮影…森本泰弘(管理人)】


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