栃木県日光市・布引滝


さて、無事河原へ降りることができたものの、この先のルートがわからない。踏み跡も、あれだけあった赤テープの目印もプッツリと途絶えてしまった。全く見事な消えっぷりである。誰だ、楽勝だなんて言ったのは。しばらく検討し、そのまま右側を進むことにした。河原には大きな岩がゴロゴロしていて歩きにくい。しかも浮き石が多く、一見安定していそうな岩でも、足を乗せたら動いたりする。こんな所で骨折でもしたら戻れなくなってしまうので慎重に歩く。

少し登ると両岸が迫り、落差10mくらいの小滝が立ちはだかった。これは直瀑であり高巻くしか登る方法はなさそうだ。ここには二つのルートがあり、一つは10m滝の滝壺から右へ、残地ロープを頼りに登る一般的なAルート。もう一つは、10m滝から少し手前の右側の小尾根を灌木を頼って登り、トラバースするBルートである。


→高巻きルート図(別ウインドウで開く)

Aルートはかなり急であるが、残地ロープがあるため難しくはない。ただロープがかなり古く痛んでいるため、全体重をロープに預けることは慎みたい。

Bルートは最初灌木を掴んで一気に15mほど登り、崖の下に到達したら上流へ急斜面をトラバースするルートである。こちらはガレ場へ下る部分に残地ロープがあるものの、途中のトラバースで滑落の危険があるため、あまり使われてはいないようだ。

どちらのコースを選んでも、10m滝の上で最後には合流する。10m滝を過ぎると目の前が明るくなってきて、布引滝の下部がチラチラと見えてくる。そして樹林が切れると共に、遥か頭上から布引滝が落下しているのが見えた。

歩き始めてから2時間40分。ついに憧れていた滝の下に着いた。見上げた姿は、想像を遙かに超える巨大な滝であった。滝の多い日光といえども、これほどの巨瀑は他にはない。落差は目測で120〜130mといったところなので、雲竜瀑やヒナタオソロシの滝より落差は低い事になるけれど、布引滝の方が岩盤を含めたスケールの大きさで圧倒する。

ところで、こうして滝壺から見上げてみると、その優雅な名前「布引滝」とは似ても似つかぬ荒々しい姿に見える。昔の人はおそらく富士見峠から日光へ抜ける尾根道を歩きながら、遠くに滝の姿を見て名付けたのであろう。もし滝壺へ行った者が名付けていたら、もっと迫力のある、別の名前になっていたに違いない。

結局滝壺には午後3時まで、2時間ちょっと滞在した。帰りの時間を考えるとギリギリである。あまりにもすばらしい場所なので立ち去りがたく、できるものならば持っているツェルトを張って、ここに泊まりたいとさえ思った。だが、明日はいろいろと予定が入っている。未練を残しつつも、現実の世界へと戻らなくてはならなかった。


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