滝の落差

観光地の滝を見に行くと必ず落差の表記がある。「ほほう、そんなに高いのか」と信じてしまいがちだが、実際にその値は正確なのだろうか。ここでは日本三名瀑の一つとされている「袋田の滝」を例にとって、滝の落差について考えてみたいと思う。


そもそも滝の落差を測るというのは大変な仕事で、落差が実測値に基づいて発表されている滝というのは非常に少ない。栃木県の華厳の滝はその数少ない滝の一つで、明治時代にロープや高度計を使って落差約98mと実測されている。

さて、それでは例にとった袋田の滝はどうだろうか。公式に落差120mと言われているが、実測されたという話は聞いたことがない。そこで地形図を使っておおよその落差を測ってみることにしてみた。

上の地形図の等高線間隔は10m。左上に赤丸で囲ってある等高線が標高150m。それから数えてみると、滝壺付近の標高はだいたい130mという事がわかる。では、滝の上の標高はどれくらいなのだろうか。地図の右下に赤丸で囲った標高点を見ると222mとある。この場所は滝よりも遙かに上流なので、この時点で滝の落差は100m以下であることがわかる。

ではもう少し正確に測ってみる。袋田の滝の上流にある生瀬滝の上に標高220mの等高線が出ていることから、生瀬滝の標高は220m以下であることがわかる。生瀬滝の落差は実際に見て10m弱である。生瀬滝から袋田の滝落ち口までは実際に歩いているが、ほぼ高低差がないので、袋田の滝落ち口の標高は210mぐらいだと推測できる。

これで落差を計算することができる。落ち口の標高が210m、滝壺が130mだから、210-130=80…つまり、袋田の滝の落差は実際には約80mと考えられる。なんと公式値と40mもの差が出る結果となってしまった。


地形図の等高線は時に不正確である。特に山間部の滝印付近はいい加減なことも多いので、地形図だけを信じて落差を測るというのは問題もある。しかし袋田の滝は人里であり、滝上も滝下もなだらかな地形なので標高が間違っている可能性はかなり低い。つまり落差120mは大嘘、という事になる。

なんでそういう事態になっているのか私は知らないが、落差が大きい方が観光で売るにはインパクトが強いからかもしれない。ちなみに、こういう例は袋田の滝だけではなく各地の観光滝に共通した事で、絶対にそんなに高くないだろう、という滝が全国にはたくさんある。


今回、わかりやすかったので袋田の滝を例にあげてしまったが、別にこの滝を悪く言うつもりは全くない事はわかってほしい。袋田の滝は実際大きな滝だし、段瀑として全国でも屈指の美しい滝だ。滝の良さは落差だけでは語れない。高くてもつまらない滝もあれば、低くても美しい滝もある。その事をわかってほしいと思う。


追加情報
茨城県教育委員会「袋田の滝及び生瀬滝」にて、総高約80mと掲載されていますので、この落差で確定で良いのかなと思います。


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